外出を自粛し、家にできるだけ留まってどう過ごすか?で皆さんそれぞれに工夫されていたようですが、私が取り組んだことの一つは模型を作りでした。15年前にキットを購入し、将来時間が出来た時に作ろうと思ってクローゼットにしまい込んだままになっていたのですが、予想もしないことからそんな時が来てしまったというわけです。
作ったのは1903年にライト兄弟が初めて飛行に成功したWright Flyerの米国のGuillow社製の1/20スケールモデルで、翼幅は61㎝程度です。https://www.guillow.com/1903wrightflyer.aspx
完成させたものを下の写真のように部屋に吊り下げて飾っています。
こんな頼りない構造と推力で彼らが空を飛ぼうとしたことには驚きますが、そんな機体を人間が腹ばいになって操縦している様子には心を動かされるものがありついつい見入ってしまいます。それは「可能性を信じ周到な準備をして果敢に挑戦する」という彼らの技術者としての生き方、精神が伝わってくるからだろうという気がします。
製作は2週間程度をかけてゆっくり行いました。以下はその過程を書き留めたものです。
1日目
組み立てるために、翼面より十分大きい平らでピンを挿すことができる板が必要です。ここでは写真のようなコルクボードを利用しました。
キットにはバルサ角材、レーザーカットされたバルサ板、紙、糸が入っています。丁寧な組み立ての説明書が付いているので、最初によく読んで手順をしっかり頭にいれておく必要があります。
2日目
組み立て開始です。翼の平面図の上にラップを敷き、そのうえで組み立てます。こうしておくと接着剤で設計図を痛めることがありません。まず最初に、翼の前縁と桁をピンで平面図の所定の位置に固定し、それをリブでつないでいきます。
リブはこのようにデリケートに作られています。細いところは1mm程度しかありません。先端を前縁に当て、切り欠きのところに桁を通し十分な接着剤で固定して強度を持たせていきます。
翼の前縁、桁、リブを接着して複葉機の上翼と下翼をこのように組み立てます。
3、4日目
翼の前縁をカミソリとサンドペーパーを使って滑らかな形状に整形します。さらに翼端を平面図に合わせて角材でつくり、翼の前縁、桁に固定します。
5,6日目
翼の後端は糸で作ります。片方の翼端に糸を接着剤で固定し、リブの後端をつなぐ形で糸を張って固定していきながら、もう一方の翼端まで糸を張ります。
バルサ材と糸で翼のフレームができたら、最初に翼の上面に紙を貼ります。木工用接着剤を2倍に希釈し、フレームに塗って紙を貼っていきます。貼った後に、リブの部分に紙の上から前記の接着剤を塗り、接着剤をしみこませる形で紙とリブをしっかり接着します。
上面に貼った紙が乾燥したら同様に翼の下面に紙を貼ります。
紙に多少の皴ができても後で霧吹きをするととれるので問題ありません。
7日目
キットの箱の厚紙で作った治具で支えながら上翼と下翼を18本の支柱でつなぎ、複葉の主翼を組み立てます。これで随分とWright Flyerらしい感じがでてきました。
余談ですが、英語のjigに治具という日本語を当てたのはホントにうまいですね。catalogに型録と当てたのもスゴイですけど。
8日目
機体、プロベラ保持機構、ラダー、エレベータのフレームを設計図に合わせて角材で作ります。機体と言っても翼を載せるソリと言った方がいいようなものです。ラダー、エレベータは2枚の羽根でできています。非常に華奢な構造です。
9日目
ラダー、エレベータのフレームに紙を貼ります。
エレベータ、ラダーを組み立てて作ります。
10日目
エンジン、駆動用のチェーン、ラジエータの金属でできている部分には色を塗ります。
11,12日目
機体に、主翼、エレベータ、ラダーを取り付け、全体を組み立てます。そして、補強のためのワイヤーを糸を張ってつけます。木と紙でできた華奢な構造なので、ワイヤーを張って強度を持たせたのでしょう。Wright Flyerはワイヤーで主翼をたわませ、エルロン的な動作させる機構を持っていたと言われていますが、このモデルではそれは実現されていません。
下の写真は組み立てたものを前方上から見たものです。エレベータが主翼の前方にある構造です。
これは逆に後方上から撮ったものでラダーは主翼の後ろに配置されています。
エンジンの回転をチェーンで2つのプロペラに伝えていますが、チェーンの一つは8の字にかかっています。トルクを打ち消すために逆回転させたようです。
完成しました。ちょっと飾ってみましたが、なにか足りません。そう、パイロットです。
その後
キットはOrville Wrightの絵を板に貼って作る2Dのパイロットを乗せるようになっているのですが、ちょっとちゃちで残念な感じのものです。そこで、余ったバルサ材で作ったブロックから3Dのパイロットを削り出して作ってみました。
パイロットに彩色を施し、腹ばいで機体に乗せてみると、Wright兄弟が実際に飛んだ時の雰囲気が感じられるようになりました。なかなかいい仕上がりで満足です。
最後に
Wright Flyerの実機は米国のワシントンにある国立航空宇宙博物館に展示されています。下のビデオクリップは1990年に私が訪れたときに撮影してものです。この映像がずっと頭の中にあったのですが、今回模型を作ってその時の感動が蘇りました。
国立航空宇宙博物館での実機の展示については下記をご覧ください。
https://www.si.edu/object/1903-wright-flyer:nasm_A19610048000