シニアのテニスサークルで、パソコンに入れたDVDが出なくなって困っているという相談を受けた。それだったら、ドライブに小さな穴が開いているので、そこに針金を挿し込んで取り出すことができるということを教え、家に帰ってからLINEでも下のようにメッセージを送っておいた。
すると夜になってこんな返事が来た。
よかった。うまくいったようである。
偉そうなことを言っているようだが、これについて私には苦い思い出がある。
1989年にアメリカで仕事をしていた時、大枚をはたいてMacintosh SEを購入したのだが、買って間もないある日、3.5インチのFDが引っかかって出てこなくなってしまったのである。電源を入れなおしても、何をどうやっても出てこない。シングルフロッピーモデルだったのだが、イジェクトボタンもレバーもないのでどうしようもない。今ならググればいくらでも解決するための情報が得られるだろうが、当時はまだそんな時代ではない。困り果てて、カバーを外して中を見るとフロッピーのドライブが見えた。そこで壊さないように気を付けながら、工具を使ってなんとかディスクを引き出すことに成功したが、ヒヤヒヤものだった。翌日その武勇談をアメリカ人の同僚に話すと、横の小さな穴にクリップを延ばして挿し込めばいいんだよとあっさり言われてしまったのである。
あの時ほど驚いたことはない。
小さな穴に針金を挿して中身を取り出す仕掛けは、FDから光学ディスクになっても残ってそれが標準的になったし、最近ではスマートフォンのSIMやSDを取り出すために普通に使われている。その方式が広く使われるようになったのは、どこにでもあるものが使えるというアイデアが優れていたということだろう。
ところで、この危機を救ってくれるアレのことをゼムクリップと呼ぶが、ゼムって何だろう? 調べてみると、最初に開発したイギリスの会社の名前だということが分かった。
ゼムクリップ、今日も世界中でディスクが出てこなくて困っている人を救っているに違いない。