The Fool In The Valleyの雑記帳

-- 好奇心いっぱいのおじいちゃんが綴るよしなし事 --

上反角の作用

飛行機の主翼は、多くの場合、左右の翼が上反角という角度で上向きにVの字をなすように付けられています。この上反角は横揺れに対する安定を良くする効果があるのですが、ここでその作用について考えてみることにします。

図1 上反角

飛行機が擾乱によって下の様に傾いたとき、重力、揚力は変わりませんから、傾いた方向に横滑りの力が発生して機体はその方向に流されます。具体的には図2のように左にθ傾いたとき、左下θ/2の方向に滑ることになります。

図2 横滑り

そうなるとその逆向きに相対風を受けることになります。
このとき両翼にΦの上反角がついているとすると、機体の傾きがさほど大きくない θ/2 < Φ の場合は、図3の赤矢印で示すように、相対風の翼に垂直な成分により、左翼には上向きの風、右翼には下向きの風が当たることになります。これは主翼に対する迎え角が左翼で大きくなり、右翼で小さくなることを意味します。

図3 機体の傾きが小さいとき

一般に迎え角αと揚力係数CLの関係は図のようになっていて、失速を起さないような範囲では、CLは迎え角にほぼ比例することが知られています。

図4 迎え角と揚力係数の関係

そこで図3の場合には、左翼側の揚力が右翼側の揚力より増すことになり、右ロール(右回りの回転)がおこり、横揺れが戻されることになります。

 

機体の傾きが大きい θ/2 > Φ の場合を考えると、横滑りによって発生する相対風の翼に垂直な方向の成分は図5の赤矢印のようになります。

図5 機体の傾きが小さいとき

この場合には横滑りによって発生する相対風の翼に垂直な方向の成分はともに下向きになりますが、左翼に当たる成分より右翼に当たる成分が大きいので、主翼の迎え角の減少が左翼より右翼の方が大きくなります。その結果、右翼の揚力が下がるので右ロール(右回りの回転)がおこり、横揺れが戻されることになります。

いずれにしても、機体が傾いたときには横滑りが発生し、それによって主翼は相対風を受けます。そのとき、上反角が付いていることにより、左右の翼の迎え角に差が生じて揚力の差が発生し、傾きを戻そうとする方向に力が発生します。この力は上反角Φが大きいほど大きくなるので、上反角が大きいほど、横揺れに対する安定は良くなります。

横揺れに対する安定が良いのは利点と言えますが、逆にいうとロールを戻そうとする力が強いということなので、運動性が悪くなるというのは欠点となります。また上反角が大きくなると揚力が減少するという問題もあります。

以上から、上反角は横方向の安定性、運動性、揚力を考慮して適切な値に設定します。